生物多様性国家戦略2023-2030の背景の一つとして、生物多様性・生態系サービスの現状と課題「世界の現状と動向」がある。
生物多様性 世界の現状と要因
自然の恵みにより、我々の生活は物質的に豊かになった一方、人間活動により、世界的に生物多様性と生態系サービスが悪化し続けている。
2019 年、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)により公表された「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」によれば、地球上のほとんどの場所で自然が大きく改変されている。
・世界の陸地の75%は著しく改変された
・海洋の66%は複数の人為的な要因の影響下にある
・湿地の85%以上が消失した
・ほぼ全ての動物、植物の約25%の種の絶滅が危惧されている
過去50年の間、人類史上かつてない速度で地球全体の自然が変化しており、このままでは生物多様性の損失は止まらず、持続可能な社会は実現できないことが指摘されている。

生物多様性の損失を引き起こす要因
生物多様性の損失を引き起こす直接的な要因には次のものがある。
①陸と海の利用の変化
②生物の直接的採取
③気候変動
④汚染
⑤外来種の侵入
こうした直接的な要因は、急速な人口増加や持続不可能な生産・消費と、これら助長する技術開発によって引き起こされており、過去50年で増大しているとされる。
同報告書では、自然劣化の直接的・間接的な要因を大幅に減少させ、生物多様性の損失を止め、回復させるためには、経済、社会、政治、技術全てにおける横断的な「社会変革」が必要と指摘された。
世界的な生物多様性と生態系サービスの劣化状況を踏まえ、今後も自然の恵みを継続的に享受するには、従前からの自然環境保全の取り組みに加え、社会や一人一人の価値観や行動を変え、社会経済全体を変革する必要があるとの認識が国際的に広まりつつある。
「自然と共生する世界」に向けた移行
2020 年9月に公表された地球規模生物多様性概況 第5版(GBO5)は、生物多様性は「今までどおり」のシナリオでは損失し続けると予測する。
一方、これまでの自然環境保全の取組(生態系の保全と回復の強化、汚染や乱獲に対する行動など)に加え、食料の持続可能な生産や、消費と廃棄物の削減など、様々な分野に連携して取り組めば、低下を止めて反転させ、2030年以降には生物多様性の純増加につながる可能性があると指摘する。
2050 年ビジョン「自然と共生する世界」を達成には、「今までどおり」から脱却し、特に8つの分野(①土地と森林、②持続可能な淡水、③持続可能な漁業と海洋、④持続可能な農業、⑤持続可能な食料システム、⑥都市とインフラ、⑦持続可能な気候行動、⑧生物多様性を含んだワンヘルス)で移行(transition)が必要だと提示されている。
生物多様性との関係性が特に深い分野
様々な国際枠組の議論や報告書等においても、生物多様性との関係性が特に深い分野(気候変動、食料生産、新興感染症、海洋環境)との統合的対応の必要性が指摘されている。
気候変動、食料生産、新興感染症は、ともに土地利用の変化に深く関係し、それぞれの場所で健全な生態系を確保し回復させることが重要になる。海洋環境は、漁獲漁業など生物直接採取の影響に次いで、土地や海域の利用変化の影響が大きいとされる。
2019 年の国連総会において、世界中の生態系の劣化予防し、食い止め、反転させる努力を支援し、拡大させるために2021年〜2030年までを「国連生態系回復の10年」とすると決議され、2030年までに陸と海の30%以上を保護・保全する「30by30目標」が提唱され、昆明・モントリオール生物多様性枠組にも組み込まれた。
自然を活用した解決策(NbS:Nature-based Solutions)
気候変動、食料生産、新興感染症、海洋環境のいずれの分野も、その課題解決に当たって、自然の積極的活用が検討されつつある。これら課題解決に自然を活用し、自然の恩恵を同時にもたらす「自然を活用した解決策(NbS:Nature-based Solutions)」は、気候変動や生物多様性などで定着しつつある新しい概念であり、各種の国際会議においてNbSの考え方に基づく取組を拡大する方針が示されている。
生物多様性の低下傾向は、自然環境保全の取組だけでは止められず、NbSを気候変動対策や持続可能な生産・消費にも活用し、生物多様性保全や自然資本の適切管理を、自然環境保全以外の取組にも組み込むことは、生物多様性の損失を止め、反転させるネイチャーポジティブにつながるものである。

生物多様性を保全し自然資本を守り活用する経営
近年、生物多様性の損失や自然資本の劣化が、事業継続性を損なうリスク、あるいは新ビジネスを生み出す機会として認識されつつある。国際的には、生物多様性を脱炭素と一体的に取り組むべきビジネス課題と位置づけて事業活動に組み込む動きが加速している。
企業の事業活動は、生物多様性・自然資本に依存しており、事業継続性確保の観点から自然資本の持続的利活用や生物多様性保全をビジネスにおける一つの主要経営課題と捉える見方は、事業会社はもちろん、投資家・金融機関においても高まっている。
その動きは社会で脱炭素経営が主流化してきた過程に似通っており、次の10年間で自然資本管理や生物多様性保全がビジネスになることが期待される。
生物多様性国家戦略 2023-2030:生物多様性・生態系サービスの世界の現状と動向
生物多様性国家戦略2023-2030とは
「生物多様性国家戦略2023-2030」の背景①:世界の現状と動向
「生物多様性国家戦略2023-2030」の背景②:日本の現状と動向
「生物多様性国家戦略2023-2030」で取り組むべき課題
「生物多様性国家戦略2023-2030」の目指す姿・2050年ビジョン
「生物多様性国家戦略2023-2030」ミッション「2030 年ネイチャーポジティブ」