健全な生態系は重要であり、生物群集全体の保全観点から、2030年までに陸と海の30%以上を保全する「30by30」目標達成を指標とし、国土全体にわたり生息・生育・繁殖地の確保と連結性の向上を図る
生産活動やインフラ整備等目的を含む陸域及び海域の利用・管理において、生物多様性への負荷軽減と質の向上に係る取組を進める。野生生物の進化への影響を減少させ、総合的な野生生物の保全を強化する。
これら取組を効果的に推進するため、関係府省庁の連携体制を強化する。生態系レベルから遺伝子レベルまで健全性を確保し、気候変動等への強靱性にも寄与する生態系の健全性を回復させる。
生物群集全体の保全に向けた場の保全・再生とネットワーク化
①保護地域による保全
奥山自然地域の保全含め、生物多様性保全の屋台骨役割を担う国立・国定公園において、公園区域の指定・拡張、陸域における特別地域等の規制区分の見直しによる保護規制計画の適正化、海域における海域公園地区の指定・拡張等の取組を進める。
管理の質向上のための自然再生・希少種保全・鳥獣保護管理・外来種対策等の取組の充実及び管理体制の強化を図る。上記以外の保護地域も、必要に応じた指定・拡張や継続的・効果的な管理を図る。
海洋保護区については、適切な設定や管理充実・モニタリング強化に関する検討を進める。保護地域による保全・管理に際し、将来予想される気候変動による影響への適応の観点も踏まえた取組を進める。
②OECM による保全
「保護地域以外で生物多様性の保全に資する地域」(OECM)に関して、民間取組等により生物多様性の保全が図られている区域を「自然共生サイト」として認定し、生物多様性のための「30by30アライアンス」を通じて、30by30目標に係る先駆的な取組を促す。
地域主体の取組を一層促進するため、個人・団体等が参加しやすいインセンティブ創出を検討し、関連施策を推進する。
海域について、関係省庁が連携し、持続可能な産業活動が結果として生物多様性の保全に貢献している海域をOECMとすることを検討し、該当する場所の整理を進める。
③生態系の質の向上とネットワーク化
森・里・川・海のつながり確保のため、劣化した生態系の回復や自然の質を向上させ、生態
系ネットワークの構築・維持を図る。そのため天然生林の保全管理、多様な森林整備、草原の再生・維持管理、河川・湖沼・湿原・沿岸域における自然の再生、都市地域における緑地の適切保全や生物多様性に配慮した緑地の整備等を推進する。
河川を始めとする水系が森林、農地、都市、沿岸域などつなぐ生態系ネットワークの重要基軸であることに留意し、統合的な土砂や栄養塩類の管理の観点も踏まえた取組を進める。地域固有の生物相に応じた生態系の広がりや、複数生態系を含む景観や海域など様々な空間レベルでのつながりを考慮する。
身近な自然が普通種を含む生物の生息場所及び生態系ネットワークの構成要素であることに留意し、多様な主体の連携による維持管理を促進する。
④生物多様性の状況の「見える化」
30by30目標達成と多様な生態系のネットワーク化に向け、生物多様性の現状や保全上効果的な地域マッ
プ化等、生物多様性の重要性や保全活動効果を国土全体で「見える化」し、生態系の質的な変化を含めて評価・把握する手法構築を図り、提供する。

陸域及び海域の利用・管理における生物多様性への負荷軽減
①森林
生物多様性保全など多面的機能発揮の観点から、多様な生育段階や樹種から構成される森林がバランス良く配置された状態を目指して整備及び保全を推進する。
森林の現況や自然条件に応じ、育成単層林においては広葉樹の導入等による針広混交の育成複層林への誘導を含む多様な森林整備を進めると共に、天然生林の適切な保全・管理を推進する。森林内の貴重な野生生物の保護など生物多様性の保全に配慮した森林施業を推進する。
不適切な管理による森林の生物の生育・生息環境の喪失にも対処し、生物多様性など多面的機能発揮に資するよう、森林管理の担い手の確保・育成、市町村が主体となった経営や管理等を進める。
②農地
農地における生物多様性保全に関する評価を進め、化学肥料の使用量や化学農薬使用リスク低減、有機農業の推進、家畜排せつ物の適正管理等による環境負荷の低減、多様な生物の生息・生育・繁殖環境となる水路・畦畔や防風林などを含め農村景観全体の保全、これら多様な環境の広域的観点からネットワーク形成等を進める。これらにより、生物多様性に配慮した持続可能な農業を推進する。
適正な農業生産活動の継続による荒廃農地の発生防止や多面的機能確保を図る観点から、中山間地域等への支援を行い、全国的に減少傾向にある草地の生産性や生物多様性保全等の機能維持のための整備や管理を促進する。
③都市
都市における生物多様性確保のため、都市公園の整備や緑地の保全、魅力ある水辺空間の創出等により、水と緑のネットワーク形成を推進する。
緑地確保につながる取組の評価や、緑地の多様な機能増進に関する取組の支援等を通じて、生物の生息・生育・繁殖環境を損なわず、効果的な整備・管理を行うための地方公共団体や民間事業者の都市生物多様性保全の取組を推進する。
④河川・湖沼・湿地(陸水)
河川・湖沼・湿地の管理において、生物の生息・生育・繁殖環境、多様な景観の保全・創出につながる取組や外来種対策等を推進する。かわまちづくり等の魅力ある水辺空間の創出や広域的生態系ネットワークの形成を図り、河川環境整備や公共用水域の水質改善、流域の地域住民等と協働した取組による水環境への関心・理解の醸成等を通じ、健全な水循環の確保を推進する。
⑤沿岸・海洋
ブルーカーボン吸収源としての活用や水産資源の増殖等で重要な役割を果たす藻場・干潟・サンゴ礁等の海域環境の保全・再生・創出を図る。海洋プラスチックごみ対策観点から、漁具の改良や海洋ごみの回収を進める。海洋プラスチックごみ対策にあたり、海域に流出する前に、主要発生源である内陸地域を巻き込み、分別回収の徹底と散乱防止対策、その普及啓発等により発生抑制推進も重要である。
持続可能な水産資源管理のシステム構築し、生物多様性の確保と同時に日本の漁獲生産量回復を図る。水質浄化と生物の生息・生育空間の確保観点から、新たな護岸整備や既存護岸等の補修・更新時には、原則として、生物共生型護岸等の環境配慮型構造物を採用する必要がある。
野生生物の保全
①個別の取組強化と複合的観点の取組み
鳥獣の適切な個体群管理とその担い手確保、希少な野生生物の生息域内保全と補完する効果的な生息域外保全・野生復帰等の実施、外来種対策における緊急対処が必要な生物やへの対応等、個別種に焦点を当てた取組を喫緊の課題に的確に対応しつつ進める。
②普通種や野生生物の遺伝的多様性等の保全に係る取組
普通種も現状把握し、必要に応じて生息・生育・繁殖地の保全含めた対策を図る。
生物の人為的野外放出は、遺伝的多様性の確保、国内由来の外来種や国外由来の在来種の問題等、地域の生物多様性の保全に影響を及ぼすことがあるため、生物多様性への著しい支障を生じさせないよう、必要な取組を講じる。
③野生生物に影響を与える可能性がある飼養動物の適正な管理に係る取組み
動物飼養に際して、動物が逸走しない施設で飼い主が適正管理を推進する。
家畜化されていない野生由来動物の飼養は、動物の本能、習性・生態に即した適正な飼養確保が一般的に困難なため、限定的であるべきである。

基本戦略1における目標の設定
生物多様性の3つのレベル(生態系、種、遺伝子)における健全性に関する状態目標を設定する。
それら状態達成に向けて生物多様性の損失要因に対処するための行動目標や、生物の種・種内の遺伝
的多様性に着目した保全策について行動目標を設定する。
【状態目標】
1-1:全体として生態系の規模が増加し、質の向上により健全性が回復している
1-2:種レベルでの絶滅リスクが低減している
1-3:遺伝的多様性が維持されている
【行動目標】
1-1:陸域及び海域の30%以上を保護地域・OECMで保全し、それら地域の管理有効性を強化する
1-2:土地・海域利用による生物多様性への負荷軽減により生態系の劣化を防ぎ、既に劣化した生態系の30%以上の再生を進め、生態系ネットワーク形成に資する施策を実施する
1-3:汚染の削減に資する施策を実施する(生物多様性への影響削減を目的とする排出管理を行い、環境容量考慮した適正水準とする)
侵略的外来種による負の影響の防止・削減に資する施策を実施する
1-4:気候変動による生物多様性に対する負の影響を最小化する
1-5:希少野生動植物の保護を実施し、野生生物の生息・生育状況改善のための取組を進める
1-6:遺伝的多様性の保全等を考慮した施策を実施する
生物多様性国家戦略 2023-2030:生物多様性・生態系サービスの世界の現状と動向
「生物多様性国家戦略2023-2030」で取り組むべき課題
「生物多様性国家戦略2023-2030」の目指す姿・2050年ビジョン
「生物多様性国家戦略2023-2030」ミッション「2030 年ネイチャーポジティブ」
基本戦略1生態系の健全性の回復
基本戦略2自然を活用した社会課題の解決
基本戦略3ネイチャーポジティブ経済の実現
基本戦略4生活・消費活動における生物多様性の価値の認識と行動
「生物多様性国家戦略2023-2030」戦略実施に向けた基本的考え方