プラスチックネガティブとは
プラスチックネガティブとは、企業(メーカー・小売)が排出するプラスチック量より、多くのプラスチック量を自然界から回収しようとする考え方・活動。
自然界からのプラスチック回収は、①海洋プラゴミ回収に加え、②河川プラゴミ回収、③そのほかゴミ回収活動がある。
プラスチックネガティブでは、自社が排出するプラスチック量に対し、2〜10倍のプラスチック量を自然界から回収することが主流となりつつある。
プラスチックゴミ回収は、自社の活動として行うことの他に、プラスチックゴミ回収NPOや企業との協業・資金提供を通じて行う方法もある。
海洋汚染の最大の原因:プラスチックゴミ
海の生態多様性を脅かす最大の問題は、プラスチックによる海洋汚染である。
第2次世界大戦後、手軽で耐久性に富み、安価に生産できるプラスチックが世界で大量生産・利用されるようになった。プラスチックの多くは使い捨てされ、環境中に流出し、最終的に「海」に行き着く。
結果、世界の海に存在するプラスチックゴミは合計1億5,000万トンといわれ、そこに毎年800万トン以上(ジェット機5万機相当の重さ)が新たに流入していると推定されている。

大量プラスチックゴミは、海の生態系に甚大な被害を与えており、魚類、海鳥、アザラシなど海洋哺乳動物含め700種以上の生物が傷つけられ死んでいる。
また海洋流出したプラスチックゴミは、やがて小さなプラスチック粒子(マイクロプラスチック)となり、数百年以上も自然界に残り続けると考えられている。
マイクロプラスチックは食物連鎖を通じて多くの生物に取り込まれ、魚など食する人間の体内にも取り込まれる。
マイクロプラスチックの人の身体や繁殖などへの影響の詳細はまだ明らかになっていないが、本来自然界に存在しない物質が、人体含め広く生物の体内に取り込まれた結果を、楽観視することは許されない。
海の生態系への悪影響や、マイクロプラスチックの大問題はありつつも、プラスチックは人間生活にとって欠かせない現在、完全にプラスチックを生活から切り離すことは難しい。
その現実を受け入れた上で、プラスチックネガティブの考え方・活動が求められている。
参照:https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3776.html

プラスチックニュートラルとの違い
「プラスチックネガティブ」と似て非なる考え方・活動として「プラスチックニュートラル」がある。
プラスチックニュートラルとは、企業が排出するプラスチック量と、同じ量のプラスチックをリサイクルすることで、プラスチック排出を実質的にプラスマイナスゼロにする考え方・活動。
プラスチックネガティブもプラスチックニュートラルも、プラスチックによる環境汚染を減らそうという目的は同じである。
一方で、その目的に対するアプローチや対象は異なる。
プラスチックニュートラル
- 自社プラスチック排出量を実質的にゼロにする(マイナスをゼロにする)
- リサイクルする=これから出るプラゴミを減らす=現在の自然界に存在するプラゴミは気にしない
- 「サーキュラーエコノミー(循環経済)」の文脈の活動
プラスチックネガティブ
- 自社プラスチック排出量より多くのプラスチックを自然界から回収する(よりポジティブな状態にする)
- 自然界から回収する=現在の自然界に存在するプラゴミを減らす
- 「ネイチャーポジティブ」の文脈の活動
生物多様性の国際目標とプラスチックニュートラル/プラスチックネガティブの関係
生物多様性の以前の国際的な目標は、2010年COP10で採択された「愛知目標」であり、2020年までに「生物多様性の損失を止める」ことを目指していた。
当時の目標と合致していたのが、プラスチックニュートラルの活動だ。生物多様性の損失を止めるために、自社プラスチック排出量を実質的にゼロにすることが求められていた。
一方で、2022年の昆明・モントリオール生物多様性枠組の2030年ミッションは「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め、反転させるための緊急の行動をとる」となり、「損失を止めることに加え、反転させる」目標である。
この目標に合致するのが、プラスチックネガティブの活動となる。自然を回復軌道に乗せるために、自然界に既に存在してしまっているプラゴミを回収することが求められる。
ネイチャーポジティブとは、生物多様性の減少傾向から反転させ、2030年までに回復基調にのせる(ネットポジティブ)ための考え方とあらゆる営みである。
そのためにはプラスチックニュートラルだけでは不十分で、企業、特に大企業・多国籍企業はプラスチックネガティブなアクションが求められる。

大企業・多国籍企業・金融機関に求められるプラスチックネガティブアクション
世界の海に合計1億5,000万トン存在し、毎年800万トン以上が新たに流入するプラスチックゴミ。
海洋プラスチックの8割以上は、陸上で発生し海に流入したもので、特に多いのが使い捨て用が中心の「容器包装用等」である。世界全体のプラスチック生産量の36%が「容器包装用等」で、世界のプラスチックゴミの47%を占めると考えられている。

日本はプラスチック生産量は世界第3位、1人当たり容器包装プラスチックゴミ発生量は世界第2位と、この問題に国際的な責任を持たなければならない立場にある。国内で流通するレジ袋は推定400億枚/年で、ペットボトルの国内年間出荷は227億本に達する。
参照:https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3776.html
容器包装用プラスチックを製造したのはメーカーであり、消費者に販売したのは小売事業者である。特に大企業・多国籍メーカーや小売事業者の責任は大きいと言わざるを得ない。
昆明・モントリオール生物多様性枠組の2030年ミッションは「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め、反転させるための緊急の行動をとる」である。
プラスチックニュートラルの行動に加えて、プラスチックネガティブの行動により、自社が排出するプラスチック量に対し、2倍〜数倍のプラスチック量を自然界から回収する具体的なアクションを決定・実行することが、大企業・多国籍企業・金融機関に求められる。
プラスチックネガティブ事例
①河川プラゴミ回収事例
河川などのプラゴミ回収は、企業がまず取り組みやすいプラスチックネガティブに向けた活動である。
BNPパリバ:グループ全体で年間100万時間のボランティア
BNPパリバでは、グループ全体社員約20万人が、年間100万時間ボランティア活動に費やす「1 Million Hours 2 Help」プログラムを行っており、ボランティア活動の一つとしてごみ拾い活動を推進。ゴミ拾いアプリの導入、河川清掃NPO活動従事などにより、プラスチックゴミ削減活動を社員草の根的に行っている。
BNPパリバ:プラスチックネガティブ事例
ソニー:海洋プラゴミ対策アクション One Blue Ocean Project
海洋プラゴミを減らすべく、製品プラスチックを減らす、使い捨てプラスチックをやめる、プラスチック清掃を始める、の3つのアクションを2019年より展開している。
プラスチック清掃がプラスチックネガティブに向けた活動であり、大分県の事業所の近隣海岸清掃、フィリピン社員ボランティアによるマニラ湾のゴミ拾いなど世界各地で行なっている。
ソニー:プラスチックネガティブ事例
アストラゼネカ等:NPO荒川グリーンエンド・フォーラムへの協力
アストラゼネカ、ブルームバーグ、キャップジェミニ、バンクオブアメリカ、セールスフォース など複数企業が、荒川の河川ゴミ拾いボランティアを行なっている。
NPO荒川グリーンエンド・フォーラムの事例
企業の社員ボランティアの草の根活動的なプラゴミ回収は素晴らしい取り組みである。
一方、大企業・多国籍企業が排出するプラスチック量は膨大であり、例えば花王は、ボトル容器や詰め替え用フィルム容器として、年10.6万トンのプラスチックを包装容器として含む製品を供給している(=プラスチック排出している)。
例:花王のプラスチック排出量
社員有志のゴミ拾いでは、10.6万トンものプラスチックゴミを自然界から回収するのは不可能であることは明白であり、プラスチックネガティブに向けて、その他のプラスチックゴミ回収手段も講じる必要がある。
②海洋プラゴミ回収事例
プラスチックゴミは世界の海に合計1億5,000万トン存在するため、自然界からプラゴミ回収することは、海洋プラゴミの回収とほぼ同義である。
また年間数万トン単位のプラスチックを排出する大企業・多国籍企業メーカーや小売事業者が、プラスチックネガティブ状態に至ろうとする(自社が排出するプラスチック量より、多くのプラスチック量を自然界から回収する)と、海洋プラゴミ回収以外の選択肢は実質的に存在していない。
海外では、海洋プラゴミ回収に取り組む企業も増えつつあり、プラスチックアクションプラットフォーム「rePurpose Global」などと協業して、さまざまな施策を展開している。
CENTRED.:CENTRED around sustainability x Project Pavitra Parvat
イギリスのパーソナルケアブランド「CENTRED.」は、ヘアケア製品などのボトル1本販売されると、その10倍の量のプラスチックを自然界から回収するプロジェクトを、rePurpose Globalとの協業を通じて行っている。
CENTERD.:プラスチックネガティブ事例

EVOLVE ORGANIC BEAUTY:自社の使用プラスチックの2倍を回収
イギリスのオーガニック化粧品ブランド「EVOLVE ORGANIC BEAUTY」も、rePurpose Globalとの協業を通じてプラスチックネガティブを推進する1社である。同社の使用プラスチック量の2倍の量を自然界から回収する取り組みを行っている。
EVOLVE ORGANIC BEAUTY:プラスチックネガティブ事例
イングランドでは2023年10月からプラ使い捨て容器の使用禁止に
イギリスはプラスチック使用禁止に大きく舵を切った国の一つであり、イングランドでは2023年10月から、プラスチック製の使い捨て容器やフォーク、スプーンなどを使用禁止することとなった。(スコットランドとウェールズは、既に2021年に同様の禁止措置を導入済み)
英イングランド、使い捨てプラスチックの容器やフォークなど禁止へ 2023年10月から
政府レベルでの方向転換により、イギリスではプラスチックネガティブの動きが急速に進んでいる。
ナンバースリー:プラスチックネガティブ・プロジェクト
日本でも感度の高い企業が、同様の取り組みを始めている。
プロ向け頭髪化粧品メーカーのナンバースリーは、rePurpose Globalとの協業による、プラゴミ削減・海洋汚染から海を守るプロジェクトを開始。商品1本販売されると、商品で使用したプラスチック量の2倍の金額を、プラスチック回収活動支援に充当されるもの。
ナンバースリー:プラスチックネガティブ事例

プラスチックネガティブとは、企業(メーカー・小売)が排出するプラスチック量より、多くのプラスチック量を自然界から回収しようとする考え方・活動。
自社プラスチック排出量を実質的にゼロにする「プラスチックニュートラル」では不十分であり、特に大企業・多国籍企業メーカーや小売事業者は、自社プラスチック排出量より多くのプラスチックを自然界から回収するプラスチックネガティブの活動が求められる。