昆明・モントリオール生物多様性枠組の、2030年ミッション「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め、反転させるための緊急の行動をとる」を受け、企業、特に大企業や多国籍企業・金融機関では、2030年に向けて具体的な対応が求められる。

生物多様性の過去の国際目標との違い

生物多様性のこれまでの目標は、2010年COP10で採択された「愛知目標」であった。
愛知目標は、2020年までに「生物多様性の損失を止める」ことを目指し、20の目標があった。

対して2022年の昆明・モントリオール生物多様性枠組の2030年ミッションは「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め、反転させるための緊急の行動をとる」となり、「損失を止めることに加え、反転させる」目標となった。

ネイチャーポジティブとは、生物多様性の減少傾向から反転させ、2030年までに回復基調にのせる(ネットポジティブ)ための考え方とあらゆる営みである。

国際自然保護連合の事務局長である道家哲平氏は次のように説明する。

「これまで生物多様性は配慮と考えられてきた。マイナスをゼロにする考え方。しかし今後は、ポジティブ、つまりプラスを求めていく時代がやってくる。
人間は、食べ物や服、住居など、様々な自然を使いながら生きている。今後は、人間が使った以上に自然が回復されていく、そんな時代が求められようとしている。この中でとても大切なのは『ネイチャー・ポジティブ』を定量的に把握し、議論できる状況に持っていくことが重要。」

これまで企業活動においても、生物多様性や自然環境の損失をゼロにすれば問題なかった。
しかし今後はプラス、つまり生物多様性や自然環境を向上させる行動が求められるようになる。
「減らしてはならない、というネガティブな思考と行動」を、「増やそうとする、ポジティブな思考と行動」にパラダイムシフトする必要がある。

https://www.nacsj.or.jp/official/wp-content/uploads/2023/03/No592_GBFsummary_P17.pdf

大企業や多国籍企業・金融機関に求められる対応

生物多様性の減少傾向から反転させ、2030年までに回復基調にのせる(ネットポジティブ)ため、2030年までに達成すべき23の行動目標のうち、次のものは企業、特に大企業や多国籍企業・金融機関は緊急の行動が求められる

ターゲット2:2030年までに損なわれた生態系・自然の 30%を回復させる
→(生態系の維持や、ネガティブなことの削減のみならず)
 自然の再生・回復アクションが、大企業・多国籍企業・金融機関に求められる

ターゲット3:陸・水・海の 30%を人と自然の共生する地域として守り、管理する
→会社保有山林や自然の継続的な保持・管理が期待される

ターゲット7:農薬と有害化学物質によるリスクを少なくとも半減
→農薬の使用削減が求められる
→原材料や資材の調達先が、生物多様性や生態系維持リスク半減していること、またそのモニタリングやエビデンスが求められる

ターゲット7:プラスチック汚染を削減・廃絶 
→メーカーも小売も、プラスチックゴミの削減・廃絶が求められる
→プラスチックゴミ廃絶は現実的には難しく、使用プラスチック削減と並行して、企業の排出プラスチック量よりも多くのプラスチックを自然界から回収する行動が求められる

 参考:プラスチックネガティブとは

ターゲット7:あらゆる汚染源からの汚染リスクと悪影響を、2030年までに累積的効果を考慮しつつ、有害でない水準まで削減する
→生物多様性やあらゆる汚染リスクの悪影響の削減が求められる

ターゲット8:生物多様性への負の影響を最小化し正の影響を向上させつつ、自然を活用した解決策・生態系を活用したアプローチ(NbS)により生物多様性への影響を最小化
→負の影響を減らし、正の影響を増やすべく、自然を活用した解決策(植林、自然農法など)の実施が求められる

ターゲット10:農業、養殖業、漁業、林業を営む地域が、生物多様性の持続可能な利用
→乱獲や生態系無考慮な収穫の禁止、自然や生態系の再生が求められる

ターゲット11:自然を活用した解決策・生態系を活用したアプローチ(NbS)を通じて、大気や水、気候の調節、土壌の健全性、花粉媒介、疾患リスク低減、自然災害からの保護などの生態系の機能・サービス含む自然の寄与を回復、維持及び強化する
→自然を活用した解決策の実施、自然や生態系の再生が求められる

ターゲット12:都市部・人口密集地域の緑地空間や親水空間を持続可能な形で大幅に増やす
→都市部などで緑地増加が求められる

ターゲット15:生物多様性への負影響の低減、正影響の増加、事業者・金融機関の持続可能な生産パターン確保の行動推進のために、特に大企業や多国籍企業・金融機関について以下事項を確実に行わせる
(a) 生物多様性に係るリスク・依存・影響を定期モニタリング・評価し、透明性をもって開示すること
 すべての大企業・多国籍企業・金融機関は、事業活動・サプライチェーン・バリューチェーン・ポートフォリオにわたって実施する
(c) アクセスと利益配分の規則や措置の遵守状況について報告する
原材料や資材の調達先が、生物多様性や生態系維持リスクを犯していないこと、またそのモニタリングやエビデンスが求められる

ターゲット16:2030年までに食料廃棄の半減、過剰消費の大幅削減、廃棄物発生の大幅削減
→食料食品メーカーも小売も、食料廃棄の半減が求められる
→メーカーも小売も、廃棄物の大幅削減が求められる

ターゲット20:この枠組ゴールを特に途上国にて満たすべく、能力の構築・開発、技術へのアクセスと技術移転を強化、イノベーション創出と科学技術協力を促進する
→生物多様性や自然への負の影響の削減、維持・保全・管理、正の影響に向けた再生・回復の活動を、国内のみならず、海外、特に途上国で行うことが求められる

昆明・モントリオール生物多様性枠組(仮訳)

ネイチャー”ポジティブ”というパラダイムシフト

これまで企業活動においても、生物多様性や自然環境の損失をゼロにすれば問題なかった。
しかし今後はプラス、つまり生物多様性や自然環境を向上させる行動が求められるようになる。
「減らしてはならない、というネガティブな思考と行動」を、「増やそうとする、ポジティブな思考と行動」にパラダイムシフトする必要がある。

2030年までに達成すべきターゲットに関して、企業、特に大企業や多国籍企業・金融機関は緊急の行動が求められる。

以前(愛知目標)は「生物多様性の損失を止める」ことが目標だったため、企業は、企業活動に起因する生物多様性への悪影響をゼロに近づけようとすればよかった。
原材料や資材調達先が悪影響を及ぼしてないこと、原材料の調達先の自然環境をの維持、自社保有の自然を維持・管理、農薬使用やプラスチックゴミの削減など。

しかし、昆明・モントリオール生物多様性枠組の2030年ミッションは「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め、反転させるための緊急の行動をとる」となった。
これまでと同じでは不十分であり、生物多様性や自然を回復軌道に乗せるための活動が、大企業や多国籍企業・金融機関に今後求められるようになり、
自然を使う以上に、自然を回復させる活動をすることが求められる

投稿者 smasa0810

“昆明・モントリオール生物多様性枠組ー企業が対応すべきこと解説” に1件のフィードバックがあります

生物多様性民間参画ガイドライン(2023年度版)サマリー – ネイチャーポジティブ大全 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です